―古来、九段は水に恵まれた土地であった。千鳥ヶ淵と牛ヶ淵は、徳川家康が臨海都市・江戸の飲み水を確保するために整備した場所である。千鳥ヶ淵は、もともと日比谷の入江に注いでいた三本の沢筋を盛り土で堰き止めてつくられた人工湖であり、その名は「水ちと取り」、すなわち水汲み場に由来するという説もある。槙原泰介の作品は、工業用ホースを循環する水の流れを庭の滝や小川に見立てると同時に、九段の湧き水や人工湖のイメージをも含んでいるように思われる。―
近藤亮介(美術批評家)
展覧会カタログ ‘再構想する日本庭園’ より抜粋